「単式簿記と複式簿記、どちらで帳簿をつければいいの?」——個人事業主や小規模法人の経理担当者にとって、これは避けて通れない疑問でしょう。結論から言えば、青色申告特別控除で最大65万円を目指すなら、複式簿記が必須です。
本記事では、単式簿記と複式簿記それぞれの特徴を具体的な仕訳例とあわせて紹介し、青色申告・白色申告との関係や、自分に合った記帳方法の選び方まで解説していきます。
単式簿記とは?家計簿に近いシンプルな記帳方法

単式簿記は、現金の収入と支出を中心に記録する方法です。家計簿やお小遣い帳をイメージすると分かりやすいでしょう。
例えば、以下のような形で記録を行います。
| 日付 | 摘要 | 収入 | 支出 | 残高 |
|---|---|---|---|---|
| 4/1 | 繰越 | — | — | 50,000円 |
| 4/5 | 売上 | 30,000円 | — | 80,000円 |
| 4/10 | 仕入 | — | 15,000円 | 65,000円 |
お金がいくら入り、いくら出て、残高がいくらになったかを一目で把握できるのが特長です。特別な簿記知識がなくても取り組めるため、開業したばかりの事業者にも取り入れやすい方法といえるでしょう。
ただし、単式簿記では資産や負債の増減までは追いにくい点に注意が必要です。取引件数が増えると、勘定科目ごとの集計に手間がかかることがあります。
複式簿記とは?取引を2つの側面から記録する方法

複式簿記は、ひとつの取引を「借方(かりかた)」と「貸方(かしかた)」の2つの側面に分けて記録する帳簿のつけ方です。「現金が減った」という結果だけでなく、「なぜ減ったか(原因)」も同時に残せるため、事業全体のお金の流れを把握しやすくなります。
例えば、事務用品を1,000円の現金で購入した場合は次のように記帳します。
| 借方(原因) | 金額 | 貸方(結果) | 金額 |
|---|---|---|---|
| 消耗品費 | 1,000円 | 現金 | 1,000円 |
この1行で、費用の発生と現金(資産)の減少を同時に記録しているのがポイントです。取引は「資産・負債・純資産・収益・費用」の5つのグループに分類され、借方と貸方の合計は常に一致します。
この仕組みによって記帳ミスを発見しやすく、決算書(貸借対照表・損益計算書)の作成にもつなげられるのが複式簿記の大きな利点です。
単式簿記と複式簿記の違いを比較

ここまでの内容をふまえ、両者の違いを整理してみましょう。
| 比較項目 | 単式簿記 | 複式簿記 |
|---|---|---|
| 記録の対象 | 現金の収支が中心 | 資産・負債・収益・費用を網羅 |
| 記帳の難易度 | 簡単(家計簿レベル) | やや複雑(簿記知識が必要) |
| 使用する帳簿 | 現金出納帳など | 仕訳帳+総勘定元帳 |
| 貸借対照表の作成 | 通常は難しい | 作成できる |
| 損益計算書の作成 | 簡易的には可能 | 正確に作成できる |
| 青色申告特別控除 | 最大10万円(簡易簿記) | 最大65万円(要件あり) |
| 向いている規模 | 小規模・取引が少ない | 中〜大規模・法人 |
実務への影響が大きいのは、青色申告特別控除の差です。ここからは、確定申告との関係をさらに掘り下げて説明します。
単式簿記・複式簿記と確定申告(白色・青色申告)との関係

確定申告においては、白色申告では単式簿記でも対応できますが、青色申告で55万円あるいは65万円の大きな控除を得るには複式簿記が前提となります。これらの関係を整理しておきましょう。
白色申告の場合
白色申告では、家計簿のような簡易な帳簿(単式簿記)での記帳が認められています。収入金額や必要経費を記録した帳簿を作成・保存しておけば申告できます。ただし、現在は白色申告でも記帳と帳簿保存が原則として求められます。加えて、青色申告のような特別控除は受けられないため、節税面での恩恵は限定的です。
青色申告で10万円控除を受ける場合
青色申告であっても、簡易簿記(単式簿記)による記帳を選ぶ場合、青色申告特別控除額は10万円にとどまります。損益計算書の添付は必要ですが、貸借対照表の提出までは求められていません。
青色申告で55万円・65万円控除を受ける場合
55万円または65万円の控除を受けるには、複式簿記での記帳が前提です。さらに、貸借対照表と損益計算書の両方を確定申告書に添付し、申告期限(原則として翌年3月15日)までに提出する必要があります。
65万円控除を受けるには、上記に加えて次のいずれかの要件を満たす必要があります。
- e-Taxによる電子申告
- 仕訳帳・総勘定元帳の電子帳簿保存(優良な電子帳簿の要件を満たすもの)
つまり、「複式簿記+e-Tax(または優良な電子帳簿保存)」という組み合わせが、個人事業主にとって節税効果を引き出すための基本パターンといえるでしょう。
単式簿記のメリット・デメリット

単式簿記は、収入と支出を一行ずつ記録していくシンプルな方法です。導入のしやすさが魅力ですが、財務において得られる情報に限りがあるため、事業の成長とともに物足りなさを感じる場面も出てきます。
メリット
単式簿記の強みは、手軽さです。お小遣い帳と同じ感覚で記帳できるため、簿記の知識がないかたでも始めやすい方法です。帳簿のフォーマットもシンプルで、Excelやノートだけで運用しやすい点は、開業直後や取引件数が少ない時期に大きな助けとなるでしょう。
デメリット
一方で、情報量の少なさが弱点です。現金の出入りしか把握できないため、「売掛金がいくら残っているか」「借入金の残高はどれくらいか」といった資産・負債の状況を読み取りにくい側面があります。
また、確定申告に必要な書類の準備にあたって、簡易簿記では青色申告特別控除が10万円にとどまる点も見過ごせません。事業規模が拡大するにつれて、複式簿記への移行を検討するケースが増えてきます。
複式簿記のメリット・デメリット

複式簿記は、ひとつの取引を借方・貸方の2面から記録する方法です。手間はかかりますが、財務状況を正確に把握できるうえ、青色申告の大きな控除にもつながるため、本格的に事業を運営するなら習得しておきたい記帳方式です。
メリット
複式簿記を採用すると、資産・負債・収益・費用の動きを一元的に把握できるようになります。これにより、貸借対照表や損益計算書といった財務諸表を正確に作成しやすくなり、経営状態の把握にも役立ちます。
青色申告特別控除では最大65万円が適用される可能性があるため、節税メリットも大きい点が特徴です。所得税だけでなく、住民税や国民健康保険料の計算にも控除が反映されるため、トータルの負担軽減効果が期待できます。
加えて、借方と貸方の合計が常に一致するルールがあるため、記帳ミスの早期発見にもつながります。金融機関への説明資料としても、複式簿記の帳簿は信頼性を示しやすい傾向にあります。
デメリット
最大の課題は、仕訳の手間がかかることです。ひとつの取引に対して適切な勘定科目を選び、借方・貸方に振り分ける必要があるため、簿記の基礎知識がないと戸惑いやすいかもしれません。
こまめに処理しないと月末や決算期に作業が集中し、確認や修正に追われるリスクも生じます。記帳代行サービスの活用や会計ソフトの導入によって、この負担は大幅に軽減できるでしょう。
単式簿記と複式簿記の仕訳例で違いを体感する

実際の取引で単式簿記と複式簿記の記録がどう異なるか、3つのケースで見比べてみましょう。
ケース1:商品を現金50,000円で売り上げた
単式簿記
| 日付 | 摘要 | 収入 |
|---|---|---|
| 4/15 | 売上 | 50,000円 |
複式簿記
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 現金 | 50,000円 | 売上 | 50,000円 |
→ 複式簿記では、現金(資産)が増えた理由を「売上(収益)の発生」として同時に記録します。
ケース2:家賃100,000円を銀行振込で支払った
単式簿記
| 日付 | 摘要 | 支出 |
|---|---|---|
| 4/25 | 家賃 | 100,000円 |
複式簿記
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 地代家賃 | 100,000円 | 普通預金 | 100,000円 |
→ 「費用の発生」と「預金の減少」を同時に記録できます。
ケース3:現金500,000円で車両を購入した
単式簿記
| 日付 | 摘要 | 支出 |
|---|---|---|
| 4/30 | 車両購入 | 500,000円 |
複式簿記
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 車両運搬具 | 500,000円 | 現金 | 500,000円 |
→ 単式簿記では「50万円の支出」としか残りませんが、複式簿記では「車両という資産を取得した」情報まで残ります。このように比べると、複式簿記のほうが取引の全体像を正確にとらえやすいことが分かるでしょう。
単式簿記と複式簿記のどちらを選ぶべき?

どちらの記帳方法を選ぶべきかは、現在の事業フェーズや将来の展望によって変わります。まずはご自身の状況がどちらに当てはまるか、以下のチェックポイントで確認してみてください。
単式簿記が向いているケース
- 開業したばかりで取引件数がごく少ない
- 白色申告を選択しており、帳簿を最低限つけておきたい
- 事業規模が小さく、資産・負債の管理がほぼ不要
複式簿記が向いているケース
- 青色申告で55万円・65万円の特別控除を受けたい
- 売掛金や買掛金が発生する取引がある
- 融資を受ける予定があり、金融機関に提出する財務資料が必要
- 事業を拡大していく見込みがある
節税効果だけを見ても、控除額には最大55万円の開きがあります。少しでも事業継続を見込んでいるなら、複式簿記への移行を検討する価値は高いといえるでしょう。
複式簿記が難しいと感じたときの対処法
複式簿記のハードルが高いと感じる場合、大きく分けて3つの選択肢があります。
会計ソフトを導入する
取引内容を入力すれば自動で仕訳が生成されるため、簿記の知識が浅くても帳簿作成を進めやすくなります。e-Tax連携に対応したソフトを選べば、65万円控除の要件も満たしやすくなるでしょう。
税理士に依頼する
記帳から確定申告までをまとめて任せられるため安心感がある反面、顧問料が発生します。年間の費用は事業規模によって異なるため、経理代行の費用相場を参考に、コストと節税効果のバランスを見極めることが大切です。
記帳代行サービスを利用する
税理士に頼むほどではないが、自分で帳簿をつける時間も取れない——そんなかたには記帳代行が選択肢に入ります。領収書や請求書を送るだけで仕訳・帳簿作成を代行してもらえるサービスで、税理士への依頼よりもコストを抑えやすいのが特長です。記帳代行の相場や依頼の流れをあらかじめ確認しておくと、スムーズに導入できるでしょう。
まとめ
単式簿記と複式簿記の違いは、単に帳簿の付け方だけではありません。確定申告での控除額や、今の経営状況をどれだけ正確に把握できるかといった点にまで大きく影響します。とくに、青色申告で65万円控除を確実に狙うのであれば、複式簿記での記帳が欠かせない条件となります。
「帳簿作業が負担で本業に集中しきれていない」と感じるなら、会計ソフトの導入に加えて、記帳代行サービスの力を借りるのも賢い選択です。
記帳代行ドットコムでは、日々の記帳業務を代行するだけでなく、クラウド会計ソフトの無料提供も行っています。導入時の設定からしっかりサポートするため、初めてのかたや、過去に独力で挫折してしまった経験があるかたも心配いりません。プロの知恵を活用して、帳簿の正確さと業務効率のアップを同時に手に入れましょう。

