リカレント教育とは、生涯にわたって就労と教育を繰り返すスタイルの学習手法のことを指します。
いったん社会に出た社会人が退職・休職をしたり、仕事と並行したりしながら大学などの教育機関で知識や技術を身につけます。
これまで海外では、リカレント教育を受けるための制度が充実していたのに対し、日本で積極的に実施されてこなかったのには、さまざまな事情や課題が存在したためです。
しかし近年では、人事の分野でリカレント教育が注目を集めています。
この記事では、リカレント教育の概要を踏まえ、なぜ今リカレント教育が注目されているかの理由からメリットや課題までわかりやすく解説します。
なじみのない方にとっては、リカレント教育と聞いてもなかなかイメージがわかないものだと思います。 この章では、リカレント教育がどのようなものかについて解説します。
リカレント教育とは、就労を経験した後に教育機関にて学習をし、就労に活かす取り組みのことを指します。 リカレント教育は、1970年にスウェーデンの経済学者レーン氏によって提唱されました。 "recurrent"は「反復」を意味しており、ビジネスにおいては「学びなおし」といったニュアンスで用いられています。 一部企業がリカレント教育に力を注ぐなど、日本では近年リカレント教育の注目が高まっています。
リカレント教育において、何を学ぶのかは特に定まっていません。 しかし、ビジネスで実用的に役立つ知識・技術の習得が重視される傾向にあります。 情報取得系科目・・・MBA・社会保険労務士資格 ビジネス系の学問・・・経営学・法律・会計 外国語習得・・・英語・中国語 情報・IT・・・ITリテラシー・量子力学・機械学習 実学・・・農学・観光学・介護/福祉
リカレント教育の対象者は、基本的に以下のいずれかです。 ・大学などの教育機関で学習を終え、現在社会人として就労している方 ・離職中の方 年齢などの制限なく、上記に当てはまる方はすべてリカレント教育の対象者になりえます。
教育をいったん終了しているにもかかわらず、再び学習をすることにどのような意義があるのかイメージできない方もいらっしゃると思います。 この章では3つの観点から、リカレント教育の重要性を解説します。
文部科学省の資料によると、学びなおしに興味をもっている方は89%にも上ります。 参考:社会人の学び直しに関する現状等について|文部科学省 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/065/gijiroku/__icsFiles/afieldfile/2015/04/13/1356047_3_2.pdf しかし、日本の大学は25歳以上の入学率がOECD諸国と比較して極端に低いという現状があります。 (日本2.5%/OECD加盟諸国16.6%) 学費やキャリアにおけるハンディキャップなど、社員側の意欲だけでは対処が難しい問題でもあるため、企業側も社員側の意欲や目的意識について把握し、対策を考える必要があります。
雇用のスタイルが変化し、企業は即戦力性を重視するようになりました。 また、社員側の考え方も一つの企業にエンゲージして社内での価値を高めるよりも、自らスキルアップをして社会での価値を高めることに重きを置く方が増えています。 そして、個人が知識・技術を習得するために、専門的な設備や研究データ、教員がそろっている教育機関を活用できることが大きな意味をもちます。
AIや機械学習など急激に技術革新が進んだことにより、従来の仕事のやり方が劇的に変化し旧来のやり方では通用しない、という課題がみられるようになりました。 技術革新への対応のため、教育機関での知識習得が注目されています。
リカレント教育に取り組んだ場合、社員と会社にはどのようなメリットが得られるのでしょうか? リカレント教育を取り組むためには、一定の費用・負荷がかかるため費用対効果を推測するうえでもチェックしておきましょう。
社員側がリカレント教育によって得られる主なメリットは以下の通りです。 ・未知の分野を学ぶことで視野が広がる ・専門的・最先端の知識を習得できる ・対応できる業務や職業選択の幅が広がり、収入アップにつながる
企業側には、以下のメリットが期待できます。 ・社員のスキルを底上げし、チームの生産性を高められる ・社内に専門的な知識・ノウハウを蓄積し、イノベーションを創出できる ・学習意欲が高く、向上心の高い社員のエンゲージメントを高められる 中・長期的な取り組みにはなるものの、リカレント教育の取り組みが成功すれば、上記のメリットが期待できます。
リカレント教育に取り組むことのメリットについてご紹介しました。一方で、未だ日本ではリカレント教育が進んでいない現状からもわかるように、実施するうえでいくつか課題が存在することも確かです。 企業側・社員側・学校側の3つの観点から、それぞれの課題を見てみましょう。
リカレント教育を実施するうえで、社員側にも一定の費用・負荷がかかります。 会社勤務を続けながら大学に通う場合には業務と学習の負荷がかかります。 また、どのような形で学習をする場合でも、授業料を負担しなくてはなりません。 社内外で確実に評価されるのであれば一定の負担をしても学習をする意欲を高めやすいですが、リカレント教育への注目が高まりはじめた現状では、まだ費用対効果が感じられにくい状況であるといえます。
現状、多くの企業は学校教育の履修を認めていません。 社員が大学などで教育を受けるためには時間的な負荷が大きく、少なからず現状の業務に支障が生じるためです。 企業が社員のリカレント教育を後押しするには勤務時間の調整などの後押しが必要ですが、リカレント教育に対してそこまで積極的ではない企業が多いのが現状です。
リカレント教育が効果的に活用されるようになれば、市場に高いスキルの人材が増え、イノベーションの促進などのメリットが期待されます。 これまでの日本では社会人の再学習は重視されてこなかったため、現状ではさまざまな課題があります。 しかし、日進月歩で技術革新が起こり、従来以上に高いスキルが「即戦力」として必要とされる今、リカレント教育への注目がますます高まっていくのではないでしょうか。