「今、注目されているソーシャルキャピタルって何?」
「なぜ、ソーシャルキャピタルが注目されているの?」
日本語で「社会的資本」と訳されるソーシャルキャピタルは、資本に関する新たな概念として注目されています。
ソーシャルキャピタルとは、社会・地域における人々の信頼関係や結びつきを表す概念を指します。
ソーシャルキャピタルの考え方をうまく活用できれば、
自社と地域社会との絆・関連性を高め、教育・経済・健康・幸福感などに良い影響を与えることで、結果的に自社の社員の居場所を作ることにも繋がります。
この記事では、ソーシャルキャピタルの概要について解説します。
やや抽象的な概念であるため、イメージを掴みやすいようなるべく具体的な形でビジネスへの活かし方や具体例などもご紹介しておりますので、ぜひご覧下さい。
厚生労働省が発表した資料によると、「ソーシャルキャピタル」のそもそもの定義は、以下の通りです。
①人々の協調行動を活発にすることによって、社会の効率性を高めることのできる、「信頼」「規範」「ネットワーク」といった社会組織の特徴
②物的資本 (Physical Capital) や人的資本(Human Capital) などと並ぶ新しい概念
<参考>https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r98520000011w0l-att/2r98520000011w95.pdf
「ソーシャルキャピタル」の定義は、元々アメリカの政治学者、ロバート・パットナムによって定義されました。
政治学者によって定義された用語であることから、ビジネスにどのように直結するのかイメージしづらい部分があるかもしれませんが、
ビジネスにおけるソーシャルキャピタルを一言に要約すると、自社や社員の人と人とのつながりや、社会との関連性を「資源」として捉える考え方を指します。
つまり、自社が社会とどのようにつながっていて、社会からどのように評価され信頼につながっているかを指します。
企業と地域とのかかわり方にはさまざまな形がありますが、
「社会貢献」「CSR(企業の社会的責任)」といった形で、社会とのつながりを重要視する企業が増えています。
また、昨今のSNSに関しても、消費者同士が交流を持ち、
口コミや評判が発生する場所という点で一つの「社会」とみなすことができ、ビジネスでの関わり方や活用法が問われています。
近年、民間企業においてもソーシャルキャピタルが重要視されています。
とはいえ、「社会貢献」や「社会との関わりが、どのようにビジネスに影響するのかイメージしづらい方もいると思います。
この章では、民間企業のビジネスにおいて、ソーシャルキャピタルがどのような意味を持つのかを具体的に解説します。
1点目は、地域の中で「事業を円滑に進められること」です。
地域の中で競合店と敵対的な立場を取り、価格競争やパイの奪い合いをしてしまうと双方にとってデメリットが大きくなり、地域経済は地盤沈下してしまいます。
例えば、ホテル・宿泊業において、競合店の特徴の真似をして似通った施設が立ち並ぶ状況となった結果、
各施設の個性が埋没し、地域の魅力が低下してしまうような事例が考えられます。
しかし、競合店同士で個性を尊重しあい、役割分担をすることで、地域として幅広くニーズにこたえられるようになり、不毛な価格競争を回避することができます。
さらには、地域との関係を良好に保つことにより、地域内でのブランド力を高めることもできます。
2点目に重要なポイントは、「社内の人間関係を改善できること」です。
自社と社会とのつながりを示すソーシャルキャピタルを社内人事に応用することで、
社員が困ったときに社内に相談をできる場所が常に確保されたり、報告・連絡・相談を社員が効果的に使いながら、ビジネスを円滑に進められたりするようになります。
要するに、社内の人間関係・対人関係について適切な関わり合いのしやすい環境を企業側で用意することにより、
社員が優れたパフォーマンスを発揮しやすい環境を作れるということです。
続いて、この章ではソーシャルキャピタルを形成するための具体的な方法について解説します。
ソーシャルキャピタルの構築方法を理解することで、ソーシャルキャピタルをより具体的にイメージできるようになるでしょう。
地域との関連性を高めるためのソーシャルキャピタルの構築方法として、企業が地域や社会に果たすべき手法があります。
特に地域での施策と関連が深いのが、CSRの取り組みです。
CSRの代表例としては、二酸化炭素排出量の削減や障がい者支援など、企業が社会をよくするための取り組みを積極的におこなっていくことです。
CSRとソーシャルキャピタルは、どちらも「社会に積極的に関わり、社会を良くしようとする」という共通点があります。
相違点としては、CSRが企業側の主観にておこなわれる活動であるのに対して、
ソーシャルキャピタルは社会全体の中で企業がどのように関わりを持つのかという視点で語られることです。
ソーシャルキャピタルは、CSRの具体的な施策を検討する際にも、一つの指針となります。
例えば、地域社会において美観のための清掃ボランティアを必要としている状況において、
ソーシャルキャピタルに積極的に取り組む企業は自社の社員がボランティアに積極的に取り組める制度を整えることができます。
このとき、CSRの一環として「ボランティア休暇制度」を設けて、
ボランティア活動のための有給休暇取得制度を設けたり、業務の一環として地域の清掃活動に参加したりするなどの取り組みを取ることができます。
上記の例のように、ソーシャルキャピタルは企業のCSRや社会貢献などとの関連性が高いという特徴があります。
ソーシャルキャピタルの考え方は社内人事にも活用することができます。
会社と地域社会との関わり合いを、スタッフ個人と会社との関係に応用する手法です。
具体的な対策としては、以下の手法があります。
・ジョブローテーションや職能間での人事異動を通じて、部署を超えてスタッフ間で理解し合える風土を醸成する
・グループインセンティブなど、チーム内での連携を強化する社内施策を打ち出すことで、チーム内での連携を高める
・オフィスレイアウトの変更やフリーアドレス制の導入により、スタッフ同士の人間関係の幅が広がるよう工夫する
・メンター制度やブラザー/シスター制度の導入により、相談がしやすい環境を整える
これらの手法を通じて、スタッフが会社の中で人間関係を構築しやすい状況を整えることが大切です。
※メンター制度・・・特に新人に対して、直属の上司とは別に相談役のスタッフを配置する研修制度を指します。
比較的、年齢の近い先輩社員が担当し、業務に関わること以外にメンタル面での相談にも対応します。
※ブラザー/シスター制度・・・メンター制度と非常によく似ていて、新人に対して年齢や社歴の近いスタッフを配置する制度です。
メンター制度との最大の違いは、新人とは異なる部署の先輩スタッフを配置することです(メンター制度は、新人と同じ部署の先輩が担当します)。
ソーシャルキャピタルの形成に関して、注意点が一つあります。
それは、成果主義を追求してしまうと、ソーシャルキャピタル形成にマイナスの影響が生じる可能性があるということです。
というのも、ソーシャルキャピタルへの取り組みの結果というのは、短期的には表れにくく、また指標がとても測りづらいためです。
地域社会との関連性や社内環境の改善という点では非常に有用であることには違いありませんが、
短期的な成果を求めるのではなく、長期的にビジョンや理念を描いて取り組まなくてはなりません。
もともと人間関係の形成などの分野で利用されているソーシャルキャピタルは、企業活動においても重要視されています。
ソーシャルキャピタルは、企業と地域社会との結びつきを強める活動という点で、CSRや社会貢献などの取り組みと非常に関連性が高いという特徴があります。
また、社内環境に対する取り組みに関しては、スタッフが社内でスムーズにコミュニケーションを取れるよう、環境を整えることが大切です。
これらの二つの側面を重視することで、企業は地域社会で仕事を進めやすくなり、また、スタッフ一人ひとりは社内で優れたパフォーマンスを発揮しやすくなります。