【この記事の結論:一番にお伝えしたいこと】
リスキリングを進めたいが費用面がネックになっている企業には、2026年3月に大幅拡充された「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」の活用がおすすめです。中小企業であれば研修経費の最大75%、訓練中の賃金についても1時間あたり1,000円の助成が受けられ、これまで対象外だった「事業展開計画を伴わない人事・人材育成計画に基づく訓練」も新たに対象に加わりました。ただし訓練開始の1か月前までに計画届の提出が必要な点や、令和8年度末までの時限措置である点には注意が必要です。
DX化の進展や人手不足を背景に、既存の従業員に新しいスキルを習得させる「リスキリング」への関心が高まっています。
一方で、研修費用や訓練期間中の人件費負担がネックとなり、着手に踏み切れない企業も少なくありません。
ここでは、リスキリングと助成金がセットで語られるようになった背景を整理します。
生成AIやクラウドツールの普及により、多くの業種で業務の進め方そのものが変化しています。
新卒・中途採用による人材確保が難しくなる中、既存の従業員が持つ知見を活かしながら新たなスキルを身につけてもらうリスキリングは、限られた人員で事業を継続していくための現実的な選択肢として注目されています。
特に中小企業では、専門部署を新設して人材を採用するよりも、現場を理解している既存社員に新しいスキルを習得させる方が、投資対効果を見込みやすいという側面もあります。
また、政府も「人への投資」を成長戦略の中心に位置づけており、リスキリング関連の助成金・補助金制度は年々拡充される傾向にあります。国の後押しがある今のタイミングで制度を活用できるかどうかが、中小企業の人材育成のスピード感を左右すると言っても過言ではありません。
制度を知らないまま自己負担で研修を進めてしまうと、同じ内容でも本来受けられたはずの支援を取りこぼしてしまうことになりかねません。
リスキリングを実施する際には、外部講師への謝金やeラーニングの受講料といった直接的な研修費用に加え、訓練期間中は従業員が通常業務を離れることによる人件費の負担も発生します。
特に中小企業にとっては、この「見えにくいコスト」が導入をためらう大きな要因になりがちです。
こうした費用負担を軽減するために活用できるのが、国や自治体が用意している助成金・補助金制度です。
制度の内容を正しく理解し、計画的に申請することで、費用面のハードルを大きく下げることができます。「制度が複雑で分かりにくい」という声も多いため、次章以降で代表的な制度を整理していきます。
リスキリングに活用できる制度は一つだけではありません。
用途や目的に応じて、助成金と補助金のどちらを利用すべきか、また併用が可能かどうかを見極めることが重要です。ここでは代表的な制度を整理します。
助成金は、雇用保険料等を財源とし、一定の要件を満たしていれば原則として支給される制度です。
審査による採択・不採択という概念がなく、計画どおりに訓練を実施すれば受給できる点が特徴です。
一方、補助金は予算の範囲内で審査・採択が行われる制度で、申請しても必ず採択されるとは限りません。
リスキリングにおいては、要件を満たせば確実に受給できる助成金が使いやすい制度として位置づけられますが、設備投資を伴うDX化などでは補助金の併用が有効なケースもあります。
制度選びで迷ったときは、「まず確実に使える助成金で研修費用の負担を軽くし、そのうえで設備投資が必要であれば補助金の公募スケジュールに合わせて検討する」という順序で考えると、計画が立てやすくなります。
補助金は公募期間が限られていることが多いため、あわせて情報収集のタイミングにも注意が必要です。
リスキリング関連の助成金の中で、全国対応かつ最も手厚い支援を受けられるのが、厚生労働省の「人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)」です。
従業員に対して職務に関連する知識・技能を習得させる職業訓練等を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成されます。
自治体独自の助成制度の方が助成率が高い場合もありますが、対象地域や予算に制限があるため、まずは全国どこでも申請できる国の制度を基準に検討するのが一般的です。
たとえば東京都では、公益財団法人東京しごと財団が独自にDXリスキリング助成金を実施しているように、自治体レベルでも同種の支援策が用意されているケースがあります。
自社の本社・事業所が所在する自治体に独自制度がないかも、あわせて確認しておくと選択肢が広がります。
リスキリングに伴い、学習環境そのものを整備したい場合は、IT導入補助金の活用も検討できます。中小企業や小規模事業者が業務効率化を目的にITツールを導入する際の費用の一部を支援する制度で、通常枠のほか複数の枠が用意されています。
また、新規事業の立ち上げやDX化に伴う人材育成の場合は、ものづくり補助金の「製品・サービス高付加価値化枠(成長分野進出類型)」が利用できるケースもあります。人材開発支援助成金と組み合わせることで、研修費用と設備投資の両面から負担を軽減できる可能性があります。
ただし、複数の制度を併用する場合は、同一の経費に対して重複して助成・補助を受けられない場合がある点に注意が必要です。どの経費をどの制度でカバーするのかを事前に整理し、必要であれば専門家に確認しながら申請を進めることをおすすめします。
人材開発支援助成金(事業展開等リスキリング支援コース)は、2026年3月2日付けで大幅な拡充が行われました。
既に制度を知っている企業も、改正内容を正しく押さえておく必要があります。ここでは主な変更点を整理します。
改正前は「具体的な事業展開(DX化・GX化・新規事業立ち上げ等)に伴う訓練」のみが助成の対象でした。
改正後は、事業展開計画の有無にかかわらず、企業の人事・人材育成戦略に基づき、将来従事する予定の職務に関連する知識・技能を習得させる訓練も新たに対象に加わっています。
これにより、明確な新規事業計画を持たない中小企業でも、社内の人材育成計画に基づく訓練であれば申請の対象になり得るようになりました。
これまでは「新規事業の立ち上げやDX化を伴う訓練でなければ対象にならない」という制約が、多くの中小企業にとって申請のハードルになっていました。
今回の改正で、日常的な人事・人材育成戦略の一環としての訓練も対象に含まれるようになったことは、制度の使い勝手を大きく高める変更だと言えます。
助成率についても、2025年4月の制度改定で引き上げられた水準が維持されています。
中小企業の場合、外部講師への謝金やeラーニングの受講料などの直接経費については最大75%が助成され、訓練期間中に従業員が業務を離れて学習している時間に対しては、1時間あたり1,000円の賃金助成が受けられます。
| 助成の種類 | 中小企業の助成水準 |
|---|---|
| 経費助成(研修費用) | 対象経費の最大75% |
| 賃金助成(訓練中の人件費) | 1時間あたり1,000円 |
| 1事業所あたりの年間上限額 | 1億円 |
助成額には1事業所あたり年間1億円という上限が設けられています。また、この拡充された制度は令和8年度末(2027年3月31日)までの時限措置とされている点にも注意が必要です。過去の類似制度では、期間終了後に内容を変えて継続・統合されるケースが多く見られますが、現時点での水準が今後も維持される保証はありません。活用を検討している企業は、早めに情報収集と申請準備を進めておくことをおすすめします。
助成金は、要件を満たせば原則として支給される制度である一方、申請手続きには決まった順序とルールがあります。
特に計画届の提出時期を誤ると、それだけで対象外になってしまうため注意が必要です。
人材開発支援助成金を受給するためには、訓練を開始する1か月前までに、実施計画書を含む計画届を管轄の労働局やハローワークへ提出する必要があります。この期限を過ぎてしまうと、どれだけ内容の優れた研修計画であっても受理されません。
研修の実施が決まった時点で、早めにスケジュールを逆算して準備を進めることが重要です。
計画届の提出にあたっては、訓練の目的・内容・対象者・実施期間・費用の内訳などを記載した実施計画書が必要になります。
対象となる訓練の内容が、職務に関連した知識・技能の習得を目的としたものであることを、具体的に説明できるように整理しておくことがポイントです。
あわせて、訓練終了後には受講状況や成果を報告する書類の提出も求められるため、計画段階から記録の残し方を意識しておくと、後の手続きがスムーズになります。
初めて申請する企業は、社会保険労務士など専門家のサポートを受けながら実施計画書を作成するケースも多く見られます。
特に訓練内容と職務内容との関連性の説明は審査上重要なポイントとなるため、自己判断だけで進めるより、専門家の視点を交えて整理する方が手戻りを防ぎやすくなります。
助成金は原則として支給される制度ではあるものの、計画どおりに訓練が実施されていない場合や、就業規則・賃金台帳などの整合が崩れている場合には、不支給や返還の対象となることがあります。
特に、訓練中の勤怠記録が曖昧なまま賃金助成を申請してしまうと、後日の確認で不整合が発覚するリスクがあります。個別の要件については、最新の公表資料で必ず確認するようにしましょう。
また、複数の助成金・奨励金を同時に申請している場合、就業規則や賃金台帳の記載内容に矛盾があると、そちらの制度にも影響が及ぶことがあります。
人材開発支援助成金の申請を機に、就業規則や労務関連書類全体の整合性を見直しておくことも、リスク回避につながります。
助成金の申請自体はゴールではなく、あくまで人材育成を進めるための手段です。
受給後のトラブルを避け、リスキリングの効果を最大化するために、実務面で押さえておきたいポイントを整理します。
賃金助成を確実に受け取るためには、訓練期間中の従業員の勤務状況を正確に記録しておくことが欠かせません。
訓練への参加時間と通常業務の時間が混在してしまうと、助成対象となる時間の算定が曖昧になり、申請内容と実態にズレが生じるおそれがあります。
勤怠管理システムを活用し、訓練参加の時間帯を明確に区分して記録できる仕組みを整えておくと、申請書類の作成負担を軽減できるだけでなく、労働局からの確認にも迅速に対応できます。
特に、通常業務と訓練参加が同じ日に混在するケースでは、開始・終了の記録を曖昧にしたまま申請してしまうと、後日の実地確認で説明に窮する場面が出てきます。
日々の勤怠データと訓練の出席記録を突き合わせられるようにしておくことが、安心して助成金を活用するための土台になります。担当者が変わっても記録の付け方が引き継がれるよう、社内でルールを文書化しておくこともおすすめです。
今回の拡充内容は時限措置であるため、リスキリングの実施を検討している企業は、制度が確実に利用できるうちに計画を前倒しで進めておくことが望ましいでしょう。
特に、複数の部署や職種にまたがる大規模な研修を計画している場合は、計画届の提出から訓練の実施、報告書の提出までのスケジュールに余裕を持たせておくことをおすすめします。
また、社内で「いつまでに何を決めるか」を可視化しておくことも重要です。訓練対象者の選定、カリキュラムの検討、外部講師や研修会社との調整には想定以上に時間がかかることが少なくありません。
制度の終了時期から逆算して、社内のタスクを早めに洗い出しておくと、期限直前で慌てる事態を避けやすくなります。
Q. 事業展開計画がない中小企業でも人材開発支援助成金は使えますか?
A. 2026年3月の改正により、事業展開計画の有無にかかわらず、企業の人事・人材育成計画に基づく訓練であれば対象となるようになりました。改正前は事業展開に伴う訓練に限られていましたが、対象範囲が広がったことで、より多くの中小企業が活用しやすい制度になっています。
Q. 助成金はどのくらいの割合の費用をカバーしてくれますか?
A. 中小企業の場合、研修にかかる直接経費の最大75%が経費助成として支給されるほか、訓練期間中に従業員が業務を離れている時間に対して、1時間あたり1,000円の賃金助成も受けられます。1事業所あたりの年間上限額は1億円です。
Q. 申請時に特に注意すべきことは何ですか?
A. 訓練開始の1か月前までに計画届を提出する必要がある点が最大の注意事項です。この期限を過ぎると受理されません。また、訓練中の勤怠記録が曖昧なまま賃金助成を申請すると不支給・返還の要因になり得るため、記録の整備も並行して進めておく必要があります。
助成金活用と両立する、リスキリングを支える働き方の基盤づくり
リスキリングの助成金を活用するには、訓練期間中の勤怠記録や業務時間の管理を正確に行える体制が欠かせません。VWSシリーズでは、勤怠管理からビジネスチャット、営業管理(CRM/SFA)まで、人材育成を支える働き方の基盤づくりに役立つクラウドサービスを幅広く提供しています。リスキリングの取り組みとあわせて、社内の管理体制の見直しもぜひご検討ください。