こうした状況下で、裁量労働制の注目度が高まっています。
裁量労働制を導入すれば、実働時間に限らず、固定残業代を取るケースが一般的です。
また、勤務時間が対象者一人ひとりにゆだねられるため、柔軟な働き方が可能になります。
この記事では、裁量労働制について詳しく掘り下げて解説していきます。
裁量労働制は、意味を正確に捉えられていないこともあります。
最初に裁量労働制の定義を確認しておきましょう。
裁量労働制とは、勤務時間が決定されず、自由な出退勤時間を取る勤務制度のことです。
裁量労働制は、法律的な分類としては「みなし労働時間制」の一種です。
裁量労働制においては、実働時間に限らず一定の時間働いたとみなされます。
例えば、あらかじめ1日の労働時間を8時間に設定した場合、実働時間が6時間であっても10時間であっても、労務管理上は8時間働いたことになります。
裁量労働制が認められているのは、専門業務型と企画業務型の2種類があります。
・専門業務型・・・業務の性質上、業務遂行の手段や方法、時間配分等を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務を担う労働者
(具体例)新商品の研究開発・情報システム・コピーライター・証券アナリスト・弁護士・公認会計士など
・企画業務型・・・事業運営上の重要な決定がおこなわれる企業の本社などにおいて、企画・立案・調査および分析をおこなう労働者(具体例)経営企画に関連する業務・社内組織を編成するポジションの業務・広報の企画立案
企画業務型の裁量労働制対象者を選定するには、労使委員会の協議にて行われます。
裁量労働制では、残業の扱い方がほかの勤務制度と異なります。
裁量労働制における基本的な残業のルールは、以下のとおりです。
・裁量労働制であっても、みなし労働時間が1日8時間・週40時間をオーバーする場合は、残業として扱われます。
そのため、労使間で36協定を結び、残業に関する規定を締結しなくてはなりません。
・一般的に、裁量労働制における残業代は、みなし残業として固定残業代が設定されます。
※一般的な残業代のように、残業時間に比例して残業代が支払われる形ではありません。
・固定残業代を採用していても、深夜・早朝の割増賃金(基本給の25%以上の割増率にて計算)や、法定休日に出勤した際の割増賃金(基本給の35%以上の割増率にて計算)は、適用されます。
フレックス制は、裁量労働制と同様、社員自身が勤務時間を自分で決められる働き方です。
しかし、フレックス制と裁量労働制は、大きく異なる点がいくつかあります。
・残業代
フレックス制は、実働時間が所定労働時間をオーバーした分に対して残業代が発生します。
ただし、裁量労働制はみなし労働時間にもとづいて残業代が計算されます。
・時間
フレックス制では、コアタイムを設定することが多いです。
(コアタイム=必ず出社しなくてはならない時間帯)
裁量労働制の方が、フレックス制よりも自由度の高い働き方です。
・対象者
裁量労働制は、厚生労働省が定めている条件を満たし、労使間での合意があれば導入できます。
フレックス制は、事前に36協定で条件を定義し、労使間で合意が得られれば導入できます。
裁量労働制を導入するには、企業側にどのようなメリットがあるのでしょうか?
この章では、裁量労働制のメリットを2つの側面から紹介します。
裁量労働制を採用すると、コスト管理が容易になります。
企業が残業代を支払う際には、1分単位で社員一人ひとりの労務状況を管理しなくてはなりません。
テレワーク導入や直行直帰などの働き方の多様化により、労務管理は煩雑化しています。
裁量労働制を導入すれば、企業は固定残業代を支払えばよいので、毎月の労務管理の手間が大きく軽減されます。
ただし、深夜勤務や休日労働に対する割増賃金の計算は必要なので注意しましょう。
裁量労働制においては、社員一人ひとりが業務の状況に応じて勤務時間を設定できるため、パフォーマンスの向上が期待できます。
また、仕事が早く完了すればオフの時間が増えるため、社員の業務に対する集中力がアップする傾向も見られます。
裁量労働制には、デメリットになりうる点もあります。
裁量労働制を効果的に活用するためにも、デメリットを把握しておきましょう。
一つ目のデメリットは、社員の管理が難しくなる点です。
・裁量労働制の社員とミーティングや打ち合わせをしようとしたときに、本人が出社しているとは限らない(本人の意図で勤務時間を設定できるため)
・会社のビジョンや理念などを共有しづらい(社員同士のコミュニケーションが低下して、業務上の必要最小限の情報共有しかされなくなる可能性がある)
これらの問題が生じないようにするには、自然なコミュニケーションをいかに確保するかという点がポイントになります。
裁量労働制は、働き方やモチベーションなどのあらゆる面で、社員本人の自己管理能力が求められます。
自己管理能力が低い場合、次の問題が予想されます。
・業務のクオリティが低下し、生産性がダウンしてしまう
・効率的に業務を回せなくなり、長時間労働に陥ってしまう
このような状態になると、本人にとっては、どんなに残業をしても固定残業代が適用されるため、ますますモチベーションが低下してしまいます。
裁量労働制を、導入するためには、手順を踏まえなくてはなりません。
手順を踏んで要件を満たさなければ、法律的に裁量労働制としては認められません。
→例えば、残業代の支払いなどの労働問題が生じたときに、会社側に不利な条件になる可能性が高いです。
裁量労働制導入の具体的な手順は、以下のとおりです。
◆専門業務型
1.厚生労働省が指定する19の業務に該当するか否かの確認・ルールの確認
2.労使協定の締結(事業所ごと)
3.就業規則の変更
4.労働基準監督署への届け出
5.雇用契約書の締結
◆企画業務型
1.企業側・従業員側の代表者で構成する「労使委員会」を設置
2.労使委員会にて企画業務型裁量労働制の内容の締結(出席者の5分の4以上の締結が必要
3.就業規則の変更
4.労働基準監督署への届け出
5.労働者本人の同意を得る
6.実施
専門業務型と企画業務型とで、それぞれ手順が異なる点にも注意しましょう。
裁量労働制は、対象社員一人ひとりの裁量で具体的な勤務時間を自由に決められる勤務体系です。
会社側は、あらかじめ設定した「みなし労働時間」にもとづいて給与を支払います。
多くの裁量労働制では、固定残業代として一律の残業代が適用されるため、労務管理や給与計算の手間が軽減されます。
深夜勤務や法定休日に勤務した場合の割増賃金は、規定通り支払わなくてはいけません。
裁量労働制をうまく導入すると、労務管理の面での手間・コストの削減や生産性向上などのメリットが期待できます。
ぜひ、この記事を参考に裁量労働制の導入を進めていただけたら幸いです。