働き方改革にともなう有給休暇取得義務化の概要と注意点
働き方改革関連法案の重要法案の1つに、有給休暇消化の義務化があります。
法案の制定により、これまでは社員の権利として認められていた有給休暇の意味合いが「必ず消化しなければならないもの」に変化しました。
しかも、社員が有給休暇を消化しなかった場合には、罰則規定が適用される可能性もあります。
したがって、企業は社員の心身の健康を守るためにも、罰則を受けないようにするためにも、有給休暇取得義務の概要や対応方法に関する知識は重要です。
この記事では、有給休暇消化の義務について専門用語を避けてわかりやすく解説しています。
企業の経営者様や総務・労務の担当者様は、ぜひ参考にしてください。
働き方改革による有給休暇消化の義務とは?
働き方改革関連法案の施行に伴って、有給休暇消化が義務化されました。 まずは、全体の概要を簡単につかんでおきましょう。
1-1. 概要と背景
有給休暇消化の義務化は、年間の有給付与日数が10日以上の正社員またはパート・アルバイトのスタッフに対して、年間5日以上の消化を義務づける制度です。 働き方改革関連法案の施行により、2019年より施行されています。 ※10日以上の有休取得が認められる労働者
週所定労働日数 | 1年間の所定 労働日数 |
勤続期間 | |
---|---|---|---|
正社員 | 6か月以上 | ||
パート・アルバイト | 週4日勤務 | 169~216日 | 3年6か月以上 |
週3日勤務 | 121~168日 | 5年6か月以上 |
有給休暇の取得が義務づけられているのは、昨今の長時間労働による健康上の問題や、過労死など精神面の負荷による事件・事故を社会の制度として防ぐためです。
1-2. 対象者
有給休暇消化が義務化させられるのは、「年間の有給休暇付与数が10日を超える」労働者です。
フルタイムの正社員のほかに、パートタイム労働者も含まれます。 また、派遣社員は派遣元の会社から有給休暇の付与と消化義務(勤務日数の条件を満たしている場合)が与えられます。
1-3. 有給休暇の付与方法の変化
有給休暇は、以前は労働者の権利として考えられていました。 したがって、消化をする場合は労働者がみずから申告して使用していました。
しかし、有給休暇が「消化しなければならないもの」へと変化したことにより、会社が社員に対して休みを取得してもらうように働きかけなくてはならなくなりました。
1-4. 罰則・ペナルティーはあるの?
会社が年間に5日の有給休暇を取得させなかった場合には、30万円以下の罰金に処せられることがあります。 該当する社員1人につき1罪となるため、有給休暇を5日消化していない対象者が年間5名存在した場合、最大150万円(30万円×5名)の罰金が課せられる可能性があります。
ただし、注意や指導による体制改善が基本的な対応とされており、違反したからと言って必ず罰則規定が適用されるというわけではありません。
働き方改革による有給休暇を消化するための方法
罰則規定を避けるために、会社は意識的に社員が有給休暇を消化するように働きかけなくてはなりません。 その方法は、大きく分けて2種類あります。 いずれの手法においても、会社は社員の考えをよく聞き、意見を尊重したうえで有給休暇の日程を決定しなくてはなりません(単に5日間与えればよいというわけではありません)。
2-1. 個別指定方式
個別指定方式とは、有給休暇の具体的な日程を社員一人ひとりの希望に委ねる方法です。 従業員側から見れば融通がききやすいメリットがあります。 また、就業規則改定手続きが不要であるため、会社にとっても手続きの面では手間がかかりません。
ただし、取得漏れが生じたり、特定の日程に有給休暇取得希望が集中して業務に支障が生じたりするリスクがあります。
2-2. 計画年休制度の導入
計画年休制度を導入する場合、会社や部署のスケジュールにあわせて社員に有給休暇を与えます。 業務スケジュールにあわせて休日を調整できる点が最大のメリットです。 また、従業員が有給休暇の申請をする際に心理的な負担を感じることもありますが、計画年休の場合は申請を言い出しづらいという状況を避けられます。
ただし、計画年休制度を導入する場合には、就業規則の変更を行わなくてはなりません。
働き方改革による有給休暇に関する注意点
有給休暇の消化義務に関しては、会社側が注意しなくてはならない点がいくつかあります。 この章では、特に重要な点を4点ご紹介します。
3-1. 就業規則の規定が必要
計画年休制度を導入する場合、就業規則を変更して法務局に届け出をしなくてはなりません。 なぜなら、休暇に関する規定は就業規則の絶対的必要記載事項として労働基準法に記載されているからです。
就業規則の作成は、テンプレートなどを使用することも可能ですが、拠点ごとに作成しなくてはならないことや、作成・提出漏れが生じると罰則規定(最大30万円の罰金)が適用されるリスクがある点に注意しなくてはなりません。
3-2. 年次有給休暇管理簿の作成
会社は、社員ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保管しなくてはなりません。
年次有給休暇管理簿とは、有給休暇を管理するための管理簿のことです。 必要記載事項は、以下の3点です。
・時期・・・年次有給休暇を取得した日時 ・日数・・・消化した有給休暇の日数 ・基準日・・・年次有給休暇が発生した日時
フォーマットは特に決まっていないため、Excelや勤怠管理ソフトなどを使用して作成する企業が多いです。
3-3. 従業員への説明会の実施
有給休暇制度の変更は、会社にとっても社員にとってもとても重要な事項です。 個別もしくは全体の説明会を開催して、制度の趣旨・概要・休暇の取得方法などをていねいに説明しましょう。
また、計画年休制度を導入する場合には、就業規則変更に伴う社内説明会の開催も必要です。 効率よく社内の周知ができるようにあらかじめスケジュールを立てましょう。
3-4. 労働環境の整備が必要
対象者が有給休暇を取得して、心身ともにしっかりとリフレッシュできるようにするためには労働環境の改善も必要です。 仕事の生産性を高めなければ、働き方改革による長時間労働の是正や有給休暇の取得による労働量の減少をカバーできず、結局どこかにしわ寄せがいきます。
また、仕事をしやすい環境が確保されていない場合、社員にとって居心地が悪くなり、負荷やストレスを感じやすい環境になるでしょう。 労働環境については、トータル的に考え対処する姿勢が必要です。
まとめ
働き方改革関連法案により2019年以降、有給休暇の消化が義務化されました。 義務化に対応しない場合、企業は社員1人あたり最大30万円の罰金を課せられる可能性があります。 そして、悪評が立ってしまうなどリスクにつながることも考えられます。
有給休暇の消化義務について会社が意識しなくてはならないのは、休暇の与え方や管理体制です。 業務全体の見直しや管理も含め、働き方改革関連法案に対応できるよう、本記事を参考にしていただけたら幸いです。