近年、AI技術は急速に進化し、その中でも注目を集めているのが「マルチモーダルAI」です。
マルチモーダルAIは、単なる画像やテキストの処理を超えて、複数の形式のデータを同時に統合し、より高度な分析や判断を可能にします。
今や医療や自動運転、防犯から教育、製造業に至るまで、私たちの日常生活を支えるさまざまな分野に取り入れられ、今後もその活用が期待されています。
本記事では、マルチモーダルAIとは何か、そしてどのような歴史や活用例があるのかについて説明するため、参考にしてください。
この記事の目次
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マルチモーダルAIとは
「マルチモーダル(Multimodal)」とは、直訳すると「複数の形式」という意味です。マルチモーダルAIとは、テキスト・画像・動画・音声など複数の異なる形式のモダリティを統合して処理できる人工知能を指します。
例えば、マルチモーダルAIはテキスト情報を読み取り、異なるデータ形式である画像を生成したり、その逆のことができたりします。
従来のシングルモーダルAIは、テキスト、音声など単一のモダリティに関する情報処理のみを行い、その任務は比較的単純なものに限られていました。
しかし、マルチモーダルAIは複数のモダリティを統合し、より複雑な処理ができるため、シングルモーダルAIでは不可能な深い洞察を導き、応用範囲が広がっています。
マルチモーダルAIの代表として、OpenAIのChatGPTを挙げることができます。ChatGPTはテキストに加えて画像や動画の入力ができ、これをテキストや音声、画像として出力するように複数のモダリティを処理できるマルチモーダルなAIです。
ChatGPTも当初はシングルモーダルなモデルであり、テキストで入力した情報をテキストで出力するのみでした。
マルチモーダルAIは医療や自動運転、防犯などさまざまな分野で応用されており、今後もその活用範囲は拡大していくでしょう。
マルチモーダルAIの歴史
「AI」という言葉は最近になって生まれたものではなく、1950年代から使用されています。当初のAIはシングルモーダルなモデルでしたが、1980年代から機械学習が注目を浴び、複数モダリティを統合する研究が生まれ始めました。
2000年代にはディープラーニングが登場し、画像・テキストの処理能力が大幅に向上したため、これらを組み合わせたマルチモーダルAIの研究が急速に発展していきます。
2013年には「Expressive Visual Text-to-Speech」という研究が発表され、テキストと人間の表情画像を組み合わせる試みがなされました。この研究では、画面上のアバターが、テキストで入力した内容に応じて喜怒哀楽の表情を作って話せるようになり、より人間に近いマルチモーダルなAIが登場しました。
そして、2022年頃から話題となっているChatGPTを始めとする生成AIもマルチモーダルAIを使っています。
マルチモーダルAIができること
マルチモーダルAIが複数のモダリティ・データを統合して実現する主な技術として、行動認識・異常検知・自動運転が挙げられます。
行動認識
マルチモーダルAIを用いて、人間や物体の動作をリアルタイムで検出して理解する行動認識ができます。画像データ(ビデオ映像)や音声データ、センサー情報など、複数のモダリティを統合して分析し、それがどのような意味を持つ行動であるかの認識が可能です。
例えば、スマート監視システムでは、カメラ映像から人物の動作を認識し、転倒や争いなどの危険な行動を自動で検出します。また、スポーツ解析においても、選手の動きをトラッキングし、戦略分析やパフォーマンス向上のための示唆を得られます。
このような行動認識を利用すれば犯罪の予防、事故の防止、スポーツの競技力向上などに役立てられるでしょう。
異常検知
通常のパターンから逸脱した行動や状況を特定するための異常検知にも、マルチモーダルAIが活用されています。マルチモーダルAIは、ビデオ映像や音声、環境センサーのデータを組み合わせ、精度の高い異常検知を行うことが可能です。
産業現場では、機械の振動や温度、作業員の動きなどの複数のデータを統合し、機械の故障や作業員の安全に関わる異常を早期に発見します。
また、医療分野では、患者の動作データと生体情報を同時に分析して発作など異常な健康状態の兆候を検出し、迅速な対応を可能にします。
自動運転
自動運転技術は、車両が人間の運転手を必要とせず、自律的に走行することを目指しています。車両に搭載されたカメラ、レーダー、音響センサーなどの複数のセンサーから得られるデータを統合し、周囲の状況を正確に把握します。
自動運転技術により、車両は他の車や歩行者、障害物などをリアルタイムで検出し、適切な運転判断を下すことが可能です。また、天候や道路状況の変化に応じた運転制御も可能であり、マルチモーダルAIの導入によって自動運転の安全性と信頼性が向上しています。
自動運転技術は、交通事故の減少や交通効率の向上、運転の利便性向上に大きく貢献することが期待されています。
マルチモーダルAIの活用
マルチモーダルAIは既に幅広い分野で活用されており、その中でも医療・自動車・防犯・教育・製造業の分野でどのように利用されているかについて説明します。
医療
医療分野において、マルチモーダルAIは診断支援や治療計画の最適化に貢献しています。
例えば、画像診断では、CTスキャンやMRIの画像データと患者の電子カルテ、病歴などのテキストデータを統合して、疾患の早期発見や正確な診断をサポートします。
また、AIは患者の動作データを解析し、リハビリテーションの効果をリアルタイムで評価することも可能です。こうした技術により、医師の診断精度の向上をはじめ、診療時間の短縮や患者のケアの質の向上に役立てられています。
自動車
自動車分野で自動運転技術の中核を担っているのが、マルチモーダルAIです。車両に搭載されたカメラ、LIDAR、レーダー、GPSなど複数のセンサーから取得されるデータをリアルタイムで統合し、周囲の交通状況や道路状況を理解します。
自動運転技術は、車両は他の車や歩行者、障害物を検出し、安全かつ効率的な運転をサポートします。また、ドライバーの顔認識や動作検知を利用して、運転中の注意散漫や疲労を検出した際に警報音や警告表示で注意喚起することが可能です。
このように、自動運転技術は事故の防止にも大いに役立てられています。
防犯
防犯分野では、マルチモーダルAIが監視カメラの映像解析や音声認識技術を通じて、犯罪行動の早期検知や防止に利用されています。
公共施設や商業施設では、監視カメラ映像をリアルタイムで分析し、不審な行動や集団の動き、異常な音(ガラスが割れる音や叫び声など)を検出して警報を発するシステムが導入されています。
このような異常検知は画像データだけでは不十分なことがありますが、音声が加わることで大声を出して怒鳴っている、泣いているなどの情報を組み合わせられるため、より正確に状況の把握ができるのです。
このようにしてマルチモーダルAIは、犯罪の未然防止や迅速な対策に役立てられています。
教育
教育分野でもマルチモーダルAIはさまざま形で取り入れられています。そのうちのひとつが、パーソナライズドラーニングです。マルチモーダルAIは生徒の学習スタイルや理解度を分析し、その生徒に最適化した教材を提供します。例えば、テキストによる学習が苦手だと判断した生徒には、画像や動画を取り入れた教材を提案します。
また、こうした学習状況や理解度に基づいて、生徒一人ひとりに応じて出題内容を変更するなどの最適化も可能です。さらに、特別支援教育においても、AIが行動データを解析して、特定の学習障害を持つ子どもたちに最適な教育方法を提案することができます。
製造業
製造業では、マルチモーダルAIが生産ラインの効率化と品質向上に貢献しています。工場内のカメラやセンサーから取得されるデータをリアルタイムで分析し、機械の稼働状態や製品の品質を常時監視します。
例えば、画像データを利用して製品の表面の微細な欠陥を検出したり、音声データを解析して機械の異常音を早期に発見することが可能です。
さらに、センサーデータを統合し、機械の振動や温度、圧力の異常を捉えて故障の予兆を予測することもできます。
まとめ
マルチモーダルAIは、異なる形式のデータを統合して処理し、従来のAI技術では成し得なかった深い洞察と多様な応用を可能にしました。
医療分野では診断精度の向上や治療計画の最適化を実現し、自動車産業では自動運転技術の中核として機能しています。また、防犯、教育、製造業など、さまざまな分野で効率化と精度向上に大きく貢献しているだけでなく、私たちの働き方をも根本から変えていくことが予想されます。
これからもマルチモーダルAIの進化は続き、その技術が私たちの働き方や生活スタイルをさらに革新していくでしょう。