副業・兼業を認める際の就業規則の整え方|2026年法改正(労働時間通算の見直し)を踏まえた実務ポイント
【この記事の結論:一番にお伝えしたいこと】
副業・兼業を認める場合、就業規則は「全面禁止」ではなく「届出制・許可制」で設計するのが実務上の基本です。厚生労働省のガイドラインでも副業・兼業の促進が明確に打ち出されており、無条件の禁止は企業側にとってもリスクとなり得ます。あわせて注意したいのが、2026年に議論が進む労働基準法改正です。労働時間の通算義務そのものはなくならないものの、割増賃金の算定方法が見直される可能性があり、健康管理の観点はむしろ重要性を増すとされています。就業規則の条文整備、勤怠管理での自己申告の仕組み、申請フローの3点をセットで整えることが、トラブルを未然に防ぐポイントです。
副業・兼業を認める企業が増えている背景

副業・兼業は、かつて多くの企業で就業規則により一律に禁止されていましたが、近年はその流れが大きく変わりつつあります。
政府主導のガイドライン整備や、多様な働き方を求める従業員側のニーズの高まりを受け、届出制・許可制での容認へと舵を切る企業が増えています。まずはその背景を整理します。
政府の後押しと厚生労働省ガイドラインの流れ
副業・兼業をめぐる制度整備は、2018年の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」策定を起点に、段階的に進められてきました。
厚生労働省はモデル就業規則から「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という原則禁止の規定を削除し、届出制を前提とした条文へと改めています。
この流れを受けて、社外での就業を経験や収入の多様化として前向きに捉える企業側の意識も広がっています。
実際に、社員の副業・兼業を「認めている」または「認める予定」と回答する企業の割合は年々増加傾向にあり、副業・兼業の容認は今や特殊な制度ではなく、標準的な人事施策のひとつになりつつあると言えるでしょう。
副業・兼業を一律禁止することのリスク
一方で、就業規則において副業・兼業を一律に禁止する規定を置いたままにしておくことには、法的なリスクが伴います。
裁判例においても、労働者が就業時間外にどのように過ごすかは本来自由であるという考え方が基本とされており、合理的な理由のない全面禁止規定は無効と判断される可能性があります。
また、実務上のリスクとしては、副業・兼業の実態を会社が把握できないまま従業員が就業を続けてしまうケースが挙げられます。
禁止規定があるにもかかわらず黙認状態が続くと、いざ労働時間管理や健康配慮義務が問題になった際に、会社側が状況を全く把握していなかったという事態に陥りかねません。
禁止するかどうかにかかわらず、まずは「把握する仕組み」を持つことが重要です。
さらに、人材確保の観点からも副業・兼業の容認は無視できないテーマになっています。
副業を希望する求職者にとって、副業を認めているかどうかは企業選びの判断材料のひとつになりつつあり、優秀な人材の採用・定着にも影響し得るためです。制度としての整備が遅れることは、労務リスクだけでなく採用面での機会損失にもつながりかねません。
副業・兼業に関する就業規則で押さえるべき基本ルール

副業・兼業を容認する場合、就業規則の条文をどう設計するかが実務上の最初の関門になります。
全面禁止から届出制・許可制へと切り替える際に、どのような表現・構成にすればトラブルを防げるのか、基本的な考え方を確認していきましょう。
全面禁止は原則NG、届出制・許可制での設計が基本
現在の実務における標準的な考え方は、「原則として副業・兼業は認めるが、事前の届出または許可を必要とする」という設計です。
全面的な自由化でも全面的な禁止でもなく、会社が状況を把握したうえで判断できる仕組みを設けることが重要になります。
届出制は、従業員が副業・兼業を始める前に会社へ申告する義務を課す方式です。
許可制は、届出に加えて会社側の承認を必要とする方式で、業種や職種によるリスクの大きさに応じて使い分けられます。
情報漏洩リスクが高い職種や、取引先と競合しうる業務に携わる従業員が多い会社では、許可制を採用するケースが一般的です。
禁止・制限できる正当な事由の明記
副業・兼業を届出制・許可制にする場合でも、一定の事由に該当するときは会社が禁止・制限できる旨を明記しておく必要があります。
判例上認められやすいとされる代表的な事由には、次のようなものがあります。
| 制限が認められやすい事由 | 具体的な内容の例 |
|---|---|
| 労務提供上の支障 | 本業の勤務に支障が出るほどの長時間労働や、著しい疲労の蓄積が見込まれる場合 |
| 企業秘密の漏洩 | 業務上知り得た機密情報や顧客情報が、副業先を通じて外部に流出するおそれがある場合 |
| 競業・利益相反 | 副業先が自社と競合関係にあり、企業の利益を損なうおそれがある場合 |
| 企業の名誉・信用の毀損 | 副業の内容が会社の社会的信用を著しく損なうおそれがある場合 |
これらの事由は抽象的な表現のままにせず、就業規則上でできるだけ具体的に定義しておくことが、後々のトラブルを避けるうえで有効です。
就業規則に盛り込むべき条文のポイント
実際に条文を作成する際は、少なくとも次の要素を盛り込んでおくと実務がスムーズになります。
まず、副業・兼業を行う場合は事前の届出(または許可)を必要とする旨。次に、届出・許可の際に会社へ提出すべき情報(業務内容、就業時間、就業先の名称など)。そして、前述した禁止・制限事由に該当する場合は、会社が中止を求めることができる旨です。
加えて、届出内容に変更が生じた場合の再届出義務や、虚偽の届出・無届での副業が発覚した場合の取り扱いについても、あらかじめ規定しておくことをおすすめします。曖昧なまま運用を始めると、個別対応のたびに判断基準がぶれてしまい、社内の公平性を保ちにくくなるためです。
2026年労基法改正で見直しが議論される労働時間通算ルール

副業・兼業の実務対応において、多くの企業担当者が悩むのが「労働時間の通算」という論点です。
2026年には労働基準法の改正論議が進んでおり、この通算ルールにも見直しの動きがあります。
ここでは現行制度の考え方と、改正の方向性を整理します。
現行制度:労働時間の通算義務とは
労働基準法第38条では、事業場を異にする場合であっても労働時間は通算して計算するとされています。
この規定は、異なる会社で働く場合であっても適用されると解釈されており、本業と副業の労働時間を合算した上で、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超える部分については、時間的に後から契約した使用者側に割増賃金の支払い義務が生じる、というのが現行の基本的な考え方です。
この仕組みは、副業・兼業を認める企業にとって実務上の負担になりやすい部分でもあります。
従業員から正確な自己申告を得られなければ、そもそも通算計算自体が成り立たないためです。
改正の方向性:割増負担の緩和と健康管理の重要性
2026年に議論されている労基法改正の方向性としては、割増賃金の厳密な通算義務については緩和される可能性がある一方で、健康管理としての総労働時間の把握については、むしろ重要度が増すという整理がなされています。
つまり「副業はもう会社が関知しなくてよい」という趣旨ではなく、賃金計算上の負担を軽くしつつ、長時間労働による健康リスクへの目配りは維持・強化するという方向性です。
企業としては、割増賃金の計算実務が多少簡素化される可能性がある一方で、従業員の総労働時間や健康状態の把握体制については、引き続き整備しておく必要があると考えておくのが安全です。
企業が今のうちに整理しておくべきポイント
制度の詳細が固まる前の段階であっても、企業側で準備できることはあります。
まず、就業規則や副業規程において、何を「副業・兼業」とみなすのかの定義を明確にしておくこと。次に、労働時間として通算の対象とする範囲(休日労働・深夜労働の扱いを含む)を整理しておくことです。
法改正の詳細情報は、官報・告示・通達といった一次情報で随時確認しながら、就業規則や運用フローを柔軟に見直せる体制を整えておくことが望ましいでしょう。
特に人事総務担当者としては、「制度が固まってから慌てて対応する」のではなく、現時点で分かっている改正の方向性をもとに、就業規則の見直し候補となる条文を先にリストアップしておくことをおすすめします。
改正内容が正式に確定した段階で、リストに沿って速やかに規程改定・周知を進められれば、現場の混乱を最小限に抑えられます。
副業・兼業者の労働時間・健康管理の実務対応

制度・規程を整備しても、日々の運用が伴わなければ意味がありません。
ここでは、副業・兼業者の労働時間や健康状態を実務レベルでどう管理していくか、具体的な進め方を見ていきます。
勤怠管理における自己申告と通算把握の仕組み
副業・兼業者の労働時間を通算把握するためには、従業員からの自己申告が前提となります。
届出時だけでなく、一定期間ごとに副業先での就業時間を報告してもらう仕組みを設けておくと、実態とのズレを防ぎやすくなります。
勤怠管理システムを活用している場合は、本業分の労働時間管理に加えて、自己申告された副業分の時間も併せて記録・確認できる運用フローを組んでおくと、担当者の手作業による集計ミスを減らすことができます。
始業・終業・休憩・時間外・深夜・法定休日といった区分は、手集計ではぶれが生じやすい部分でもあるため、システム上でルールを明確にしておくことが有効です。
休日・深夜労働が重なるケースの注意点
特に注意が必要なのは、本業の法定休日に副業先で就業しているケースや、本業・副業の両方で深夜帯(22時〜翌5時)に勤務しているケースです。休日労働や深夜割増の論点が絡み合うため、通算計算が複雑になりやすい部分です。
また、副業をしている従業員は早出や残業が発生しやすい傾向があり、疲労の蓄積によって本業の勤怠が乱れやすいという特徴も見られます。残業の上限や、勤務間インターバルの不足を知らせるアラートの仕組みを整えておくと、労務リスクを未然に防ぎやすくなります。
シフト制企業(飲食・小売・サービス業)が特に注意すべきこと
飲食業・小売業・サービス業のようにシフト制を採用している業種では、本業と副業のシフトが不規則に重なりやすく、夜勤明けに早朝シフトが入るなど、勤務間インターバルが確保されにくいという課題があります。
こうした業種では、シフト作成の段階で副業の有無や就業状況を考慮に入れられるよう、シフト管理の担当者と労務管理の担当者が情報を共有できる体制を整えておくことが望ましいでしょう。
加えて、複数店舗・複数拠点を展開している企業では、拠点をまたいだシフトの重複が見えにくいという課題もあります。
勤怠情報を一元的に管理できる仕組みを整えておくことで、こうした見落としを減らし、労務リスクの早期発見につなげやすくなります。
副業・兼業の許可申請フローの作り方

就業規則や労働時間管理の考え方が固まったら、次は実際の申請フローに落とし込む段階です。
申請書に何を記載してもらうか、承認プロセスをどう設計するかによって、現場の運用のしやすさが大きく変わります。
申請書・誓約書に盛り込むべき項目
副業・兼業の申請書には、少なくとも次のような項目を盛り込んでおくと、後の労務管理がスムーズになります。
副業先の会社名・業務内容・就業形態、想定される就業日数・就業時間、雇用契約か業務委託かの区分、そして本業との関係で懸念事項がないかの自己申告欄です。
あわせて、届出内容に虚偽がないことや、就業状況に変更があった場合は速やかに再届出を行うことを約束する誓約書を併用する企業も多く見られます。書式を整えておくことで、担当者ごとの対応のばらつきを防ぐことができます。
情報漏洩・競業避止の観点からの確認事項
申請の審査段階では、情報漏洩リスクと競業避止の観点から内容を確認することが重要です。
特に、副業先が自社の取引先や競合他社である場合、また副業先で本業の業務上知り得た情報を活用する可能性がある場合には、慎重な確認が必要になります。
審査基準をあらかじめ明文化しておくことで、担当者の主観による判断のばらつきを避け、従業員に対しても「なぜ許可・不許可となったのか」を説明しやすくなります。運用開始後も、定期的に申請内容と実態にズレがないかを確認できる仕組みを持っておくと安心です。
年に一度など、副業・兼業の状況を棚卸しするタイミングを設けておくと、規程と実態の乖離を防ぎやすくなります。
副業・兼業の就業規則に関するよくある質問(Q&A)
Q. 副業・兼業を全面的に禁止する就業規則は無効になりますか?
A. 合理的な理由のない全面禁止規定は、無効と判断される可能性があります。就業時間外の過ごし方は本来労働者の自由とされているためです。労務提供への支障や秘密保持、競業避止など正当な事由に基づいて禁止・制限できる規定とし、全面禁止ではなく届出制・許可制で設計するのが実務上の基本です。
Q. 副業先の労働時間は必ず通算しなければなりませんか?
A. 現行の労働基準法では、事業場が異なっても労働時間は通算するのが基本の考え方です。2026年の法改正論議では割増賃金の算定方法が見直される可能性がありますが、健康管理としての総労働時間の把握は引き続き重要とされているため、通算という考え方自体がなくなるわけではない点に注意が必要です。
Q. 副業・兼業の申請を許可制にする場合、審査基準はどう決めればよいですか?
A. 労務提供上の支障、企業秘密の漏洩リスク、競業・利益相反、企業の信用毀損といった、判例上も認められやすい事由をベースに、自社の業種・職種の特性に照らして具体的な基準を明文化しておくことをおすすめします。基準を明確にしておくことで、担当者による判断のばらつきや、従業員への説明のしにくさを防げます。
働き方に関するルール整備は、日々の勤怠管理の仕組みづくりから
副業・兼業の就業規則を整えても、日々の勤怠管理や労働時間の把握が伴わなければ、実務は形骸化してしまいます。VWSシリーズでは、勤怠管理からビジネスチャット、営業管理(CRM/SFA)まで、多様な働き方を支えるクラウドサービスを幅広く提供しています。副業・兼業の運用体制づくりとあわせて、自社の働き方改革を支えるツールの見直しを検討してみてはいかがでしょうか。
