雇用契約書の電子化は可能?メリット・デメリットから導入手順まで徹底解説!
雇用契約書を紙で取り交わす時代は終わりつつあります。電子化が進む中、企業に求められるのは効率化と法令遵守の両立です。
本記事では、雇用契約書の電子化が可能な理由から、そのメリット・デメリット、導入時の注意点、サービスの選び方までをわかりやすく解説します。
電子契約を検討している方は必見です。
雇用契約書は電子化できる?
雇用契約書は電子化できます。2019年の労働基準法施行規則の改正により、労働条件通知書を電子的に交付することが正式に認められたことから、雇用契約書も電子化が可能になりました。労働条件通知書については、後述します。
▼労働基準法施行規則第5条4項
法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付とする。ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法とすることができる。
一 ファクシミリを利用してする送信の方法
二 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。以下この号において「電子メール等」という。)の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)
こうした動きを受け、紙での印刷・押印・郵送といった手間を省き、オンライン上で契約締結が完了する仕組みが企業に広がっています。リモートワークや多拠点展開に対応できる点から、特に中小企業やスタートアップが導入に積極的です。
ただし、法的に有効な電子契約とするには、適切な電子署名の仕組みを取り入れる必要があります。単にPDFをメールで送るだけでは不十分であり、法律に準拠した形で電子化を行うことが大前提です。
雇用契約のおさらい
雇用契約書の電子化を正しく理解するには、その前提となる雇用契約の基本をおさらいしておくことが大切です。労働契約の意味や、労働条件通知書との違いを整理しておきましょう。
雇用契約とは
雇用契約とは、労働者が企業に対して労務を提供し、企業がそれに対して報酬(賃金)を支払うことを約束する契約です。就業時間や給与、休日などの条件を取り決め、雇用関係の基本となる法的合意を形成します。
雇用契約の締結には、必ずしも文書としての契約書が求められているわけではありません。労働者と使用者双方の合意があれば口頭でも成立しますが、後々のトラブル防止や条件の明確化を目的として、書面で取り交わすことが一般的です。
正社員に限らず、アルバイトやパートでも適切な契約が必要とされます。
雇用契約書と労働条件通知書について
雇用契約書は、労働者と企業の間で労働条件に関する合意を交わしたことを証明する契約文書で、法的な拘束力を持ちます。給与や勤務時間、就業場所、業務内容、退職に関する条件などが記載され、契約当事者の権利義務を明確にします。
一方の労働条件通知書は、労働基準法に基づいて使用者が労働者に対して労働条件を「通知」するための文書です。通知という性質上、それ自体に契約の効力はありませんが、交付は法的に義務づけられています。
実務では、これら2つの内容が重なることから、「労働条件通知書兼雇用契約書」として一体化して運用することも可能です。ただし、目的や効力には違いがあるため、企業としては役割を理解したうえで適切に交付・保管することが求められます。
雇用契約書を電子化するメリット
雇用契約書を電子化することで、業務の効率化やコスト削減だけでなく、コンプライアンス強化や従業員の利便性向上にも役立ちます。導入のメリットを具体的に見ていきましょう。
契約業務の大幅な効率化
雇用契約書を電子化することで、これまで紙で行っていた印刷、押印、郵送、保管といった一連の作業を大幅に削減できます。物理的な作業工程が不要になるため、人的リソースや時間の浪費を防げます。
特に複数名を同時に採用する繁忙期や、入社タイミングが分散する場合などには、契約書のやり取りをオンラインで完結できることが大きな強みになるでしょう。進捗管理や締結状況の把握もリアルタイムで可能です。
紙書類の管理に伴う属人的なミスや、確認漏れ、紛失リスクも軽減され、業務の正確性とスピードが両立できます。全体として、労務管理の生産性が高まります。
コスト削減
電子契約により、印刷用紙、封筒、切手代などの消耗品費用が不要になります。また、郵送にかかる料金や発送・受取業務の工数も削減でき、間接コストの抑制につながります。
また、紙の契約書を保管するスペースやキャビネットの費用も削減され、長期保存時の管理負担も軽減されるのは、大きなメリットです。企業の情報資産として契約書を安全に保つ方法としても合理的といえます。
特に中小企業やスタートアップにとっては、小さなコストの積み重ねが業績に影響するケースもあるため、電子化による固定費圧縮の効果は無視できません。
コンプライアンス強化
これまでの紙による雇用契約書管理では、紛失や情報漏洩、改ざんといったリスクが伴い、適切な権限管理や法定保存期間の遵守も煩雑でした。こうした課題は、企業のコンプライアンス維持において見逃せない点です。
そこで、電子契約システムを導入すると、契約書は安全な環境で保管されることになります。アクセスログ管理や閲覧権限設定により、セキュリティが向上。検索性の向上や締結状況の可視化も、管理体制の強化になるでしょう。
電子契約システムがあれば、労働関連法規の遵守や個人情報保護が強化され、監査時にも迅速かつ正確に情報を提供できます。万一のリスク対応力を高める手段としても有効です。
従業員満足度の向上
従来の紙と印鑑による雇用契約は、入社する従業員にとって手間と時間がかかるものでした。書類への記入や押印、返送準備などは、入社前の手続きとして負担に感じられるものです。
雇用契約を電子化することで、従業員は場所を選ばずオンラインで契約内容の確認と同意ができるようになります。入社時の手続きが迅速かつスムーズになり、書類準備や郵送の手間から解放されます。
このような利便性の向上は、入社体験をより良いものにし、企業への好印象につながるでしょう。ペーパーレス化を推進する先進的な企業イメージも、従業員満足度向上に貢献する一因となります。
テレワークへの対応
雇用契約書の電子化は、テレワークやフルリモート勤務への移行を円滑に進めるためのインフラ整備としても機能します。対面での契約手続きが不要となるため、地理的制約を受けません。
地方在住の人材や海外からのリモートワーカーともスムーズに契約が交わせるため、採用の幅が広がります。また、在宅勤務の従業員とも必要なタイミングですぐに書面のやり取りができます。
新たな働き方を支える柔軟な労務体制を整えるうえで、電子契約は不可欠なツールとなりつつあります。働き方改革の一環としても、注目すべき取り組みです。
知っておくべき雇用契約書電子化のデメリットと注意点
雇用契約書の電子化には多くの利点がありますが、一方で注意すべき点や導入時のリスクも存在します。従業員の同意やセキュリティなど、見落としがちなポイントを確認しておきましょう。
従業員の同意が原則必要
雇用契約書を電子化して交付する際、原則として従業員本人の同意を得ることが求められます。労働条件通知書の電子交付が法的に認められていても、同意なしで一方的に電子文書のみでの締結を行うことは適切ではありません。
特に高齢の従業員やITに不慣れな層にとっては、電子契約そのものへの不安や抵抗感があるケースも想定されます。無理に電子化を進めると、信頼関係の損失やトラブルの原因になりかねません。
そのため、導入前には「電子契約とは何か」「操作はどう行うか」などを丁寧に説明し、書面契約との選択肢を提示するなど、配慮ある運用が必要です。
システム導入・運用コストの発生
電子契約の導入には、電子署名サービスや契約管理ツールなど、専用のシステムを利用する必要があり、一定の初期費用と月額利用料が発生します。
また、導入後も運用ルールの整備、従業員への説明、社内マニュアルの作成などに時間とリソースを要します。中小企業にとっては、これらの準備コストがハードルと感じられることもあるかもしれません。
ただし、こうした初期費用はかかりますが、紙の契約に必要な人件費や印刷・郵送のコストを減らせれば、長い目で見るとコスト削減に役立つでしょう。
セキュリティ対策の徹底が不可欠
契約情報は、個人情報や給与などの機密性の高い情報を含むため、電子化にあたってはセキュリティ対策が欠かせません。不十分な対策で情報漏洩が起きれば、企業の信用失墜にもつながります。
システムにはアクセス制限、通信の暗号化、操作ログの取得などの機能が必要です。加えて、万が一の障害に備えて、バックアップ体制や災害時のデータ保全方針も整えておく必要があります。
セキュリティ対策を怠ると、法的責任を問われるだけでなく、企業の社会的信用を大きく損なう事態を招きかねません。信頼性の高いシステムを選び、社内規程の整備や従業員教育を徹底することが求められます。
雇用契約書電子化サービスの選び方
自社に適した電子契約サービスを選ぶには、機能・価格・サポート体制など多角的な視点が欠かせません。安心して運用を始めるためにも、選定時に押さえておくべきポイントを整理しましょう。
電子帳簿保存法に対応しているか
電子契約サービスを選定する際は、電子帳簿保存法への対応状況を必ず確認してください。適法な電子保存を行うには、タイムスタンプの付与、改ざん防止機能、検索性の確保など、法令で定められた要件を満たす必要があります。
労働契約書は長期保存が求められる書類であり、税務・労務両面での監査対象にもなり得るため、法的リスクを最小限に抑えなければなりません。帳簿保存法対応済のサービスであれば、こうしたリスクへの備えも万全です。
必ず提供元の仕様書や機能一覧を確認し、「電子帳簿保存法対応済み」と明記されているかどうかをチェックしましょう。
従業員が使いやすい操作性か
電子契約は、使用者だけでなく従業員側も操作をするものです。複雑な操作を強いるツールでは、現場に定着しにくく、問い合わせやミスの原因になることもあります。
スマートフォンでの閲覧や署名に対応しているかどうか、ログイン不要で署名が完了できるかなど、ユーザー体験を想定した設計になっているかを事前に確認しましょう。
従業員が迷わずに操作できることで、全体の業務負担が軽減され、結果的に人事・労務部門の生産性向上に寄与します。初回導入時には、デモや無料トライアルを活用するのもおすすめです。
導入・運用サポート体制は充実しているか
ツールの機能性だけでなく、導入時や運用中のサポート体制が整っているかも、サービス選定では重要な判断ポイントです。特に電子契約が初めての企業では、法令対応や設定の不安を感じやすいため、手厚い支援があると安心です。
契約書テンプレートの整備支援、操作マニュアルの提供、初期設定の代行、電話やチャットでの問い合わせ対応など、ベンダーによってサポート内容は異なります。
導入後の定着支援まで見据えて、サポートメニューの有無や品質をあらかじめ比較しておきましょう。
料金プランは適切か
電子契約サービスの料金プランは、初期費用、月額基本料、従業員数や送信件数に応じた従量課金など、提供元によってさまざまです。自社の利用規模や契約頻度、必要な機能を考慮し、最適なプランを選ぶ必要があります。
多機能であっても使わない機能が多ければ割高になりますし、逆に費用を抑えすぎると必要な機能が不足するかもしれません。将来的な従業員数の増減や利用シーンの拡大も見据え、プランの柔軟性や拡張性も確認しましょう。
雇用契約書を電子化する導入手順
雇用契約書の電子化は、目的の明確化からシステム選定、従業員への説明、運用開始まで段階的に進めることが肝心です。導入に向けた基本的な手順を簡潔に押さえておきましょう。
① 導入目的の明確化と社内ルールの策定
まず、なぜ雇用契約書を電子化するのか、その目的(例:業務効率化、コスト削減、テレワーク推進など)を社内で明確にしましょう。
目的が定まれば、電子化する契約書の範囲、運用フロー、責任者、電子データの管理方法といった具体的な社内ルールを策定します。
② 従業員への説明と同意取得
電子化にあたっては、従業員の同意が必要です。メリットや操作方法を分かりやすく説明し、不安を解消したうえで同意を得るようにするのが大切です。
③ 電子契約システムの選定
自社の業務量や予算、セキュリティ要件に合った電子契約サービスを選定します。事前にトライアルを活用し、操作性やサポート体制も含めて比較検討しましょう。
④ 運用開始と効果検証
導入後は、小規模な範囲で運用を開始し、トラブルの有無や業務改善効果を確認します。問題がなければ段階的に全社展開し、継続的に運用状況を見直していきましょう。
まとめ
雇用契約書の電子化は、業務効率の向上やコスト削減だけでなく、コンプライアンス強化やテレワーク対応に寄与する有用な手段です。
一方で、従業員の同意取得やセキュリティ管理など、導入にあたって注意すべき点もあります。制度や実務のポイントを正しく理解し、自社に合ったサービスを選びましょう。
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