採用や異動、人事評価にAIを組み込んだシステムを導入する企業が増えています。企業にとって優秀な人材の確保、育成は大きな問題であり、AIを用いたアプローチが大きな注目を集めています。
本記事では、人事にAIを活用している企業の事例や、人事にAIを導入することのメリット・デメリットについて解説しているため、参考にしてください。
この記事の目次
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人事業務にAIを活用している事例
人事システムにAIを活用している先進的な事例を3つ紹介します。
ソフトバンク
ソフトバンクは新卒採用にAI動画面接システムを導入しました。ベテラン人事担当者の評価ノウハウをAIに組み込み、数ヶ月にわたる評価比較と改善を通じて精度を高めました。
AI動画面接システムは、学生の回答内容や表情、声のトーンなどを分析し、公正な評価をします。その結果、面接の選考プロセスが効率化され、面接時間が約70%短縮されるとの仮説も立てられています。
NEC
NECはタレントマネジメントにAIを活用し、最適な異動案を算出するシステムを利用しています。AIは従業員の能力やキャリアパスを分析し、どの部署へ異動するのが適切なのかを提案します。
AIは単に従業員の能力や資質に合っているかどうかという基準だけではなく、部署内のバランスや上司と部下の相性などまで考慮に入れた上で提案を行うことが可能です。また、異動の際に特定の属性に偏らないよう配慮することで、公平でバランスの取れた人事配置を実現します。
このように、組織が大きくなるにつれ煩雑化する配置転換をAIによって半自動化しているのです。
松屋フーズ
松屋フーズでは、店長の昇格試験に生成AIを活用したシステムを導入しています。従来、松屋フーズは店長昇格試験において評価基準が統一されておらず、納得感が得られにくいという課題がありました。
そこで、AIが店長候補者が持っているスキルなどの評価を担当することによって評価基準が明確になり、従来の課題解決の足がかりになりました。
AIによる評価内容は昇格試験に合格しなかった場合でもスキルアップに役立てることができ、人材育成の効率化につながっています。
人事業務にAIを活用するメリット
AIを活用することで、人事業務が以下のように改善できます。
- 公正な人事評価ができる
- タレントマネジメントに役立つ
- 業務効率化になる
それぞれについて説明します。
公正な人事評価ができる
人事業務にAIを導入すれば評価基準が統一され、客観性が大幅に向上します。
従来の評価方法は、評価者の主観やバイアスが入りやすく、評価基準も曖昧になりがちでした。異なる評価者が同じ従業員を評価する際、基準がばらついてしまうことに課題があったのです。
しかし、AIを用いることで全ての従業員が同じ基準で評価されるようになり、評価結果が統一されます。一貫したアルゴリズムに基づいて評価を行うため、評価の公平性を担保することが可能となります。
タレントマネジメントに役立つ
AIを人事システムに導入することによりタレントマネジメントが効率化でき、従業委員の特性に合った部署への異動が可能となります。
AIは大量のデータを扱えるため、従業員のスキルや業績、性格、過去の評価など多岐にわたる情報を一括して解析し、各従業員の強みや弱み、適正を算出します。このデータをもとにして最適な部署や役割の提案をするのです。
例えば、営業成績が優れ、対人スキルに長けた従業員を営業部門に配属し、一方で、分析能力が高い従業員をデータ分析部門に異動させるなど、個々の特性に基づいた配置が可能になります。
このように、従業員の能力を最大限に引き出すことができ、企業全体のパフォーマンス向上につながります。
業務効率化になる
従来、人事評価の方法としてよく用いられていたのが評価シートです。従業員に評価シートを記入してもらい、それを後日回収し、回答をもとに評価を行うというものです。
しかし、この方法にはいくつかの課題がありました。従業員が評価シートの提出を忘れてしまった場合には、提出を催促する手間が発生し、また、回収したシートを確認する際に評価を見落としてしまうなどの人為的ミスが生じることもありました。
そこでAIを活用すれば、時間と手間のかかる作業を効率化できます。AIは、評価シートの回収やデータの集計を迅速かつ正確に行い、人為的なミスを防げるため、人事関連業務の生産性を向上させることが可能です。
また、人事に関する問い合わせ対応もAIによって効率化できます。繁忙期には、人事部門への問い合わせが殺到し、対応に追われることがよくありますが、AIチャットボットを導入すれば、これらの問い合わせへの対応を自動化することができます。
人事業務にAIを活用するデメリット
AIを導入すれば業務効率化など大きなメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。膨大なデータを扱うAIでは、プライバシーの保護や労働法の遵守などコンプライアンスの問題に十分配慮する必要があります。
導入コストがかかる
AIの導入には初期投資が必要です。AIシステムを開発・購入し、既存の人事システムと統合するためには相当な費用がかかります。また、システムの導入時には外部の専門家やコンサルタントの支援が必要になることも多く、これもまた費用の一部として計上されます。
また、導入後の維持・運用コストも考慮しなければなりません。AIシステムは導入して終わりではなく、継続的なメンテナンスやアップデートが必要です。システムのバグ修正や新機能の追加、さらにはセキュリティ対策など、継続的なサポートには追加費用が発生します。
さらに、従業員のトレーニングも重要な要素です。新しいAIシステムを導入する際には、従業員に対して適切なトレーニングを行い、システムの使い方を理解してもらう必要があります。このトレーニングもまたコストの一部となり、場合によっては業務の一時的な停滞を引き起こすこともあります。
評価基準がブラックボックス化する恐れがある
AIを用いた人事評価システムは、大量のデータをもとに複雑なアルゴリズムを駆使して評価を行います。しかし、そのアルゴリズムの詳細や評価基準が明確でない場合、従業員や管理者にとって評価のプロセスが見えにくくなり、「ブラックボックス」と化してしまいます。
これにより、評価結果に対する不信感や不透明性が生じ、従業員のモチベーションや信頼感に悪影響を及ぼす可能性があるため、注意が必要です。
このようなデメリットの対策として、ひとつはAIの評価基準を明確に開示することが考えられます。AIがどのようなデータをもとに、どのような基準で評価を行っているのかを見える化することで、従業員は評価の根拠を理解しやすくなります。
また、最終的な意思決定は人間が行うようにすることも重要です。AIが算出する評価結果を参考にしつつ、最終的な評価や昇進、異動の決定は人間が行うことで、評価プロセスに人間の判断を組み込むことができます。
このようにしてAIの評価結果を補い、従業員の個別的な事情を考慮した柔軟な対応ができるようになるでしょう。
コンプライアンスの問題がある
人事システムにAIを導入することで、いくつかのコンプライアンス上の問題が発生することがあります。
AIは、大量の個人データを収集、保存、分析します。このデータには従業員の個人情報、業績データ、評価データなどが含まれ、データ漏洩や不正アクセスのリスクが高まることを理解しておかなければなりません。
また、AIによって自動化された従業員への人事評価や決定が、労働法規に違反することも考えられます。AIが行う自動評価が労働者の権利を侵害したり、不当な解雇や昇進の判断に繋がる場合、法的な問題が発生します。
このように、全てをAIに頼るのではなく、最終的には人間が判断を加える仕組みを取り入れ、細心の注意を払って運用することが大切です。
まとめ
本記事では、人事業務におけるAI活用の事例やメリット・デメリットについて説明しました。
最近では、人事においても生成AIの導入が進み、従業員の能力・スキルの評価や採用・異動などのシーンで役立てられています。
AIは膨大なデータを統一された基準で分析できるため、客観的な人事評価を行えるのが大きな強みですが、セキュリティやコンプライアンスに配慮することを忘れてはなりません。
便利なAIの機能を最大限に引き出すためには、個々人のリスキリングや社内教育においてデジタルリテラシーを習得することがカギになるでしょう。